病気の治療の原則は、病気を悪化させる要因を除き、病状を改善させる方策を採ることであり、これは皮膚外傷の治療でも共通しているはずです。では皮膚損傷での悪化要因は何かといえば、創面の乾燥と創面の消毒の二つであり、一方、改善要因は創面を湿潤に保つことです。つまり「傷は乾かさない、消毒しない」という二つを守れば、薬剤を使わなくてもどんな皮膚損傷も非常に早くきれいに治癒するのです。 創面では欠損した組織の修復が起こっていますが、これは創面で細胞培養をしているのと同じと考えることができます。培養液がなくなれば培養細胞が死滅するように、創面を乾かせば創修復のために必要な細胞も死滅します。したがって、創が治癒するためには湿潤環境が必要です。さらに、創面からは細胞の増殖に最適のサイトカインを豊富に含んだ浸出液が分泌されていて、創面を何かで覆えば創傷治癒物質に富んだ液で湿潤に保たれることになり、創は急速に上皮化します。このために開発された治療材料が創傷被覆材です。 一方、消毒薬は蛋白質変性作用が基本作用ですが、その作用は細菌にだけでなく人体細胞も死滅させます。しかし、原液の消毒薬中でも増殖できる細菌がいるのに、希釈した消毒薬であっても人体細胞を殺すことができ、その毒性は人体においてはるかに強く、消毒すればするほど創は治らなくなります。さらに、創面に細菌がいるだけでは創が化膿したり創治癒が遅れることはなく、創感染の治療でも創治癒においても、創面の細菌は除去する必要はありません。
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夏井 睦(なつい まこと)
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